「アキラ」の大友克洋や浦沢直樹、藤原カムイなど、日本の漫画文化に大きな影響を与えたメビウスの代表作がついに邦訳発売です。既発売の「アンカル」が、ホドロフスキーの原作であるのに対し、本作は100%メビウスの作品と言えます。
本作は、これまで日本の雑誌では短編でしか掲載された事が無く、私もフランス語の読解が出来ないためアートを閲覧するのみで、分冊の本毎に登場人物やタッチががらりと変わるため、本作がメビウスの随筆的・散文詩的な作品なのかと思っていましたが、しっかりとした長編としてのストーリーがある事が、今回の邦訳で初めて理解できました。どちらかというと、「アンカル」の方がホドロフスキーの原作も素晴らしく、ストーリーティングの上で一般向けと言えるでしょうが、本作「エデナの世界」の主人公が夢の世界を渡り歩く設定は、先が読めない楽しさがあり、まさにメビウスのイメージの自由度を存分に堪能出来るものになっています。ビジュアルクリエイターなら、創造への刺激を受ける事は間違いありません。
邦訳に際しては、コマからはみ出して全てを読めないセリフまで、正確なニュアンスで訳されています。欠けた語句を補填して全文をイメージするのは大変だったろうと思います。
アンカル邦訳版同様に、原著よりサイズが小さいので、色が濃いめになってしまっており、本来の描線の伸びやかさが制限された印象を受けるのは少し残念ですが、1冊の本の中で これほど素晴らしくも幅広いタッチで表現できる作家は、他に例がありません。原著全巻を揃えて何万円もかかる事を考えると、今回のフルカラー392ページ(アンカル邦訳版よりぶ厚いです!)で4800円という価格設定は、アンカル邦訳版同様に大変有り難い事だと感じます。
スピンオフの短編も含めた完全版として一冊にまとめられた事は 世界唯一でもあり、一生の宝物と言えるでしょう。ユーロマンガvol.3に掲載された「修理」と「修理屋」も、アンカル邦訳版同様に、出版社の垣根を越えて掲載されている事も、人類の文化遺産とも言えるこの素晴らしい作品を まとまった形として残す意味でも素晴らしい事だと思います。小プロやヴィレッジブックスの邦訳本に見受けられる解説のリーフレットが無いのも、保存版書籍としてポイント高いです。
本作の「修理屋」としての主人公アタンとステルは、アニメーション「アルザック・ラプソディ」や、「B砂漠の40日間」にも見受けられる、メビウスのイコンにもなっています。少しかたちを変えて登場しますよ。興味をお持ちの方は御覧になってみては如何でしょう。
後は代表作として、随筆「まわり道」を含めた「アルザック」の邦訳が期待されますね(「アルザック」は基本的にセリフが無いのですが、併載されている「まわり道」にセリフが多いのです)。また、2010年発売の新作版「アルザック」は、文字が多くて…(苦笑)。映画「ブレードランナー」に影響を与えたと言われる短編集「ロング・トゥモロー」やホドロフスキー原作の「猫の目」、「インサイド・メビウス」も、是非邦訳を期待したいですね。