1970年代の前半、数学好きの学生にとって、トム、ミルナー、スメール、ノビコフなどのフィールズ賞受賞者の業績が燦然と輝く「微分トポロジー」は憧れの分野であった。1969年にダイヤモンド社から発行された本書の旧著は、スメールのハンドル体の理論と高次元ポアンカレ予想の解決、トムの同境理論とミルナーによるエキゾチックな球面の発見、組合せトポロジーの吸い込み補題とアンノッティング定理、などを分かり易く解説する啓蒙書として、非常に高い評価を得ていた。
久し振りに本書を読み直してみたが、内容と解説の素晴らしさは全く色褪せておらず、先生、学生日笠君、若手トポロジスト加藤氏との対話が実に良い味を出している事がわかる。本書は微分トポロジーとはどの様な分野か知りたい方にそのエッセンスを伝え、更に意欲ある方に今後の学習分野への指針を与えてくれる、とても上質な書であると思う。長らく入手困難であった本書が復刊された事を喜ぶとともに、多くの方々に読み継がれていく事を期待したい。
この本を初めて読んだ直後に、同境理論を解説する加藤先生の個性的な書『位相幾何学』(1975)が出版された。ユークリッド空間に埋め込まれた微分多様体の法管状近傍を一点コンパクト化する(トム空間)という素晴らしいアイディアが、とても美しい図を伴って詳しく解説されていた。その後、Hirschの微分トポロジーの有名なテキスト(GTM33)で、このアイディアが「This stroke of genius」と称賛されているのを知った時の感激は忘れられない。野口先生の本書が復刊されたいま、加藤先生のこの素敵な書の復刊を心から期待したいと思う。