本書は、生物としてのウニを扱っているのだが、通常の「生物学」の書物ではない。
食文化、水産学、古生物学など、とても広い範囲の項目がわかりやすく書かれている。
なんであんな不思議な形をしているの?ウニは光や匂いを感じるらしいけど目や鼻はどこにあるの?
我々はウニのどこを食べているのか?ウニの美味しさの決め手は?世界のウニ漁業は?
ウニって不思議な生き物だなあ。私が幼い頃に抱いた漠然とした印象であった。
長じてからは、ウニに関する疑問が明確になってきた。
ウニ(や同じ棘皮動物のヒトデなど)は、どうして5角形(5放射相称形)なのだろう?
個体発生の過程を考えると「2」を基本としている身体形状は理解しやすい。
発生に関与する物質の濃度勾配が、背と腹の差や、頭と尾の差となるだろう。
濃度が中心軸から対称に広がれば左右対称になりそうである。
で、ウニはどうなんだ? どうやってあんなに美しい5角形の身体を作るのだ?
進化の過程で5角形が生き残ったからには、何か有利な点があったのだろう。
その優位性はなんなのだろうか?
疑問はどんどん膨らんでいった。
動物には5角形は少ないが、植物の「花」には5つの花弁をもつものが多い。
しかし、ウニやヒトデの「5」と、サクラの「5」とは、関係あるのか?
直接の関係はなくても、背後に共通の原理が働いている可能性はないか?
そんなことを知りたくて、一時期、図書館で書物を調べたこともあったのだが、
そんな疑問群に応えてくれる書物には、何十年もの間、出会えないままでいた。
こんなこと、誰も疑問にも思わないのかな。たとえ疑問に思っても、
すぐに役に立ちそうもないこんな研究には予算が付かないだろうから
研究できないのかな。
もうほとんど諦めかけていたのだが、偶然に本書を手に取り、本当に驚いてしまった。
ああ、ウニに関するたくさんの疑問を抱き続け、長いあいだ研究を続けた人たちが
結集している!
本書には、今までにわかったこと、まだわかっていないことが
詳しく書かれていて、感嘆させられる記述の連続だったのだが、
中でも「100年以上生きるウニがいる」という項目には目を見張った。
このウニは不老長寿だというのだ。
寿命は「テロメア」が細胞分裂ごとに短くなることで決まるという考え方があるが、
このウニのテロメアは短くならないらしい。一方で、同様にテロメアが短くならない別種のウニは
3〜4年で死ぬらしいという報告もあるそうだ。つまり、寿命とテロメアとの関係の解明に
ウニの研究が貢献する可能性があるということなのだ。
この例を読んで、ウニの研究なんて役に立たない、なんて、簡単に決められないじゃないか、
と叫びたくなった。
本書の著者たちには、敬意を感じる。これからも、ぜひとも研究を続けていっていただきたい。