時計について書かれたものというと、時計そのものやブランドの歴史について書かれたものが大半だと思いまが、この本に書かれているのは、根本的にそれとは違うんですね。たとえば、ブライトリングについて書かれた文章では、左リュウズの自動巻きクロノグラフが誕生した1969年の時代感のようなものが、同じく69年に開催されたウッドストックをめぐるロックシーンと絡めて語られています。一見何のつながりもなさそうな両者が、実はともに60年代末の時代の熱気の中で産み出され、間もなくともに絶望的な状況に陥り、しかし最近になって再評価されるという、どこか似かよった運命をたどっている。時計について、そんな視点から語られることは、これまでなかったように思います。時計を語りながら、時計の向こう側を見通し、書こうとするスタンスに新鮮さを覚えました。マニュファクチュール、シリコン、ジュネーブシール、クオーツショックなど、時計を知る上で重要なタームも、自然な形でそれぞれの文章の中で簡潔に語られています。写真のキレイさにも惹かれましたが、読み物としてのおもしろさが印象的でした。