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ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)
 
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ウエハースの椅子 (ハルキ文庫) [文庫]

江國 香織
5つ星のうち 4.2  レビューをすべて見る (38件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

出版社/著者からの内容紹介

恋人の寝息は、ひそやかで安定している。うすい唇をほんのすこしひらいて眠っている。私は死について考えていたことを忘れ、恋人の寝顔に見入ってしまう。恋人の体はあたたかく、恋人は生きている。生きていて、ここにいるのだ。照明をしぼっているので寝室は暗く、オードシャルロットの匂いがする。私は恋人によってこの世につなぎとめられていると感じる。それは奇妙な感覚だ。恋人がすべてであると感じるのではなくて、恋人といるときの私がすべてだと感じる。私はそれを、淋しいと思うべきなのか満ちたりていると思うべきなのかわからなくて混乱する。正しいと思うべきなのか正しくないと思うべきなのかもわからないので、しまいには考えるのをやめてしまう。恋人の顔に指先で触れる。それはあたたかく、本質的に水分を含んでいるが、表面はざらりとする。男の肌だ。(本文より)
--このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

内容(「BOOK」データベースより)

「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。すべてのあと、私たちの体はくたりと馴染んでくっついてしまう」―三十八歳の私は、画家。恋愛にどっぷり浸かっている。一人暮らしの私を訪ねてくるのは、やさしい恋人(妻と息子と娘がいる)とのら猫、そして記憶と絶望。完璧な恋のゆく果ては…。とても美しく切なく狂おしい恋愛長篇、遂に文庫化。

登録情報

  • 文庫: 205ページ
  • 出版社: 角川春樹事務所 (2004/05)
  • ISBN-10: 4758431027
  • ISBN-13: 978-4758431026
  • 発売日: 2004/05
  • 商品の寸法: 14.8 x 10.6 x 1.2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.2  レビューをすべて見る (38件のカスタマーレビュー)
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12 人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:文庫
 ホントに江クニ香織って天才なんだなって思う。タイトルもさることながら、この書き出し。

「かつて、私は子供で、子供というものがおそらくみんなそうであるように、絶望していた。絶望は永遠の状態として、ただそこにあった。そもそものはじめから。

 だから、いまでも私たちは親しい。

 やあ。 

 それはときどきそう言って、旧友を訪ねるみたいに私に会いにくる。やあ、ただいま」

 こんな冒頭見せられたらひきつけられないわけがない。

 まぁ、絶望に取り付かれた女性の話。自分はもう中年で、言うなれば、恋人の頭の中で生きているような存在。外部から見れば恋人が私に尽くしているように見えるが、妹は、私が恋人に尽くしているんだというきわどい一言を言ったりする。恋人のべったりな関係の中に妹という少しつめたいスパイスを加えることによって、ともすればすぐに甘美な絶望な中に吸い込まれそうな私を現実につき返す。うーん、切ない。

 ストーリーはないも同然であるが、ページをめくる手がとまらない。正真正銘の傑作です。
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6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
空虚な完全 2009/11/29
By 九月
形式:文庫
38歳の「私」の生活を描いた小説。

「私」は画家で、一人暮らし。
愛し愛される「恋人」がいるけれど、「恋人」には幸福な家庭がある。
「恋人」のいない時間、「私」のもとを訪れるのは
幼い日の記憶と、慣れ親しんだ絶望。
それらが淡々とした美しい文章で、けれど秘めたる情熱をすかして描かれています。

この小説を読んで、初めに気付くのは固有名詞が登場しないこと。
「私」「恋人」「妹」「父」「母」。
主な登場人物である彼らは、通称で呼ばれることはあっても、
特定の名前で呼ばれることはありません。
一方で、「絶望」という観念は擬人化され、「私」のもとに「やあ」と言って会いにきます。
そんな奇妙なモノローグは、具体的で丁寧に描かれる日常の風景とは対照的で
このお話の静謐な緊張感を生み出しているように感じました。
そしてその独特の印象こそが、このお話のすべてです。
傍目から見ると、きちんと大人として社会生活を送っているような「私」は
幼いころからの延長線上にしか存在していない自分を自覚しています。
そしてそんな彼女がかけがえなく愛している「恋人」は
彼女のある意味で安定した生活を壊す、異物であり
彼女と「絶望」を切り離すことなどできない。
大きな変化は訪れず、また生活は続いていく。
そんな不毛で、不健全で、悲しい姿なのですが
同調してしまうような、完成された物語でした。
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6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By カスタマー
形式:単行本
久しぶりに江國さんらしさがあふれている作品だと思います。はじめは「都合のいい男の不倫と自分をとらえきれない年のいった女の現実逃避」といった感じに映っていたのが、読み進むうちにこんなにきれいにまとめられている先には何があるんだろう、そしてだんだん現れてくる「死」というもの。家族ある恋人は永遠に自分のものにはならない、それなら自分が死を待てばいい、女はそう思うようになるが・・・何回も読んでいる者の気持ちに語りかけてくる作品です。男が離れていけば女は幸せを探せるか、ぴったりくる人はめったにいない、だから離れられない。自分と深い部分でつながることのできる人を誰もが求めている、読みながらそんなことをぼんやり考えていました。ラストが素敵です。
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