IT起業家である梅田望夫氏の書。同氏が起業家として成功するうえで教訓となった先人の名言を収載し、自身の解釈をエッセイ風に加えた構成となっている。全体を5つの章に分類し、起業家に必要な精神や、社会性に必要な心得などを述べている。とくに起業家をめざす社会人を対象としているが、誰もが数時間あれば読破可能な内容で、普通の会社員にも有用な教訓が多い。
同氏の『ウェブ進化論』などではIT時代が何をもたらし、どんな知識に基づいて行動すべきかという内容であったのに対し、本書ではITの世界で成功を収めた起業家の金言を、著者の好みで収載しており、前著と比較して主観的な印象が強くなっている。書かれている言葉はIT化に伴う時代の変化を見据えたものも多いが、あたりまえすぎる教訓も多々あって、本書のコピーとなっている『明日からの仕事と生き方が変わる本!』というのにたいしては、話半分でとどめておいたほうがいいと感じた。本書のような内容は、成功した者が述べているので説得力があるように見えてしまうが、後づけで述べているだけである可能性も高いし、ハロー効果に過ぎない可能性も十分。たとえば、『何も考えずにまず始めよう』という考えと『じっくり考えて十分な準備を怠るな』という相反する教訓のどちらを主張する者にも成功者と敗残者は存在する。つまり、誰もが一念発起するためには何か教訓的な金言が後押しして、ある者は成功しある者は敗れ去っているに過ぎなく、このうち成功者だけが持論を展開する権利を与えられるのであって、言葉の内容よりも成功したかどうかという結果論がその重みを決定している可能性もある。現に記載されている教訓どうしが相容れない矛盾する内容であったり、大失敗した某IT企業にあてはまってしまう金言も多く、やみくもに紹介するのではなくもっと厳選した方がいい書になると感じた。本書の金言を心に置いていれば成功すると考えるのではなく、それに十分な資質が先に育っていなければならない。また、金言を学ぶことよりもそれを創造すること、つまり他人が何を言ったかではなく、自分自身が何を主体的に主張するかの方が大切であると理解すべきだ。
『わたしはこれで億万長者になりました』という成功秘話を知って誰もが成功するのであれば苦労はない。前述のように、成功体験に金言を後付けする手法は話半分にとどめておく程度がよいとおもう。もちろん、成功者がそれぞれ何を考えたかという偉人伝としてわりきって読むのであればたいへん面白いし、悪書であることは絶対にない。記載されている言葉にも素晴らしいものもあって、それらを上手く使うことで豊かな精神生活が得られるかもしれない。ただ、本全体の完成度からみた場合、本書を自分の人生をよくしようという目的で買わせられるかというと、そこまでは言い過ぎと感じる。書を売るための戦略が見え隠れするようで、読者の本来の目的と乖離していること、また同氏の他の著作と比較すると客観性や一貫性・合理性に関してやや低調であることから、おもしろい書ではあるが星は3つまで。