我々が対抗手段を考案したのは,抗生物質の発見,実用化が進んだ20世紀の半ば過ぎである。
ところが細菌に代わって,ウイルス感染症が人類の生命を脅かす大敵になってきた。ウイルスに対しては,我々は概して有効な治療法がない。この点は拙著「ウイルスの恐怖」(PHP研究所発行)に詳しく書いたが,その意味で,これからはウイルスとの対決の時代であると言ってもいい。
本書は,主要な10ほどのウイルスについて,病原体の発見,とりわけ病気が初めて記載されたときに何が分かっていたのか,そのウイルスに特有な問題は何か,被害を食い止めるために研究者,医師をはじめ社会や政府がどう取り組んだかについて書かれている。著者も強調しているようにウイルスのまん延を防ぐためには国のきちんとした防御体制が必要である。
天然痘のように20世紀に3億人もの犠牲者を出した末に,撲滅されたものもある。
エイズのように,1981年に記載されて以来,社会に深く入り込み今も感染が広がっているもの,エボラ,ラッサ熱のように未開の地の生物から感染し,体の至る所で出血して死に至る恐ろしいウイルスもある。一方インフルエンザのように毎年形を変えて流行するものもある。こうしたウイルスのタイプを分け,その特徴をはっきりと説明している点はわかりやすい。
全体の記述で気になるのは,筆者が米国での研究者であるため,米国での動きが中心になっている点だ。西欧,日本での対応については記述が少ない。ただ,エイズについては日本の厚生省の対応のまずさをきちんと指摘している。 (日経BP社 医療局 澤井 仁)
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