美術について、精神分析的、あるいは人類学的なアプローチで迫るという
斬新な手法―とりわけ日本人では稀有である―をとる日向氏による本。
相変わらずタイトルがややわかりづらい。「ウィルスと他者の世紀 エイズ意味論、エイズ芸術」
と題されている。エイズ、といいつつこの本にはいくつかのテーマの小論(エッセイ)が含まれている。
二部構成になっていて、一部は「エイズ芸術」「フェミニズム・レッスン」「ミステリーを読む」「カタカナ語感覚」
「死」「死と美術」。二部は「エイズ意味論」。
初期のエイズについての情報、発言はアーティストによってなされている場合が多い。
たとえばキース・ヘリング、バスキア、メイプルソープ、そして古橋悌二らだ。
また文学者なども挙げられているが、こうした病気をもつマイノリティと、「健康」なマジョリティについての
考察を行う。
まず、こうした刺激的で斬新な内容を日本語で読めるというのが極めてまれなケースだと思う。
ほかに、日本人でこうした論考をしている人というのは少ないと思う。
この本が出版されたのは1997年。その頃はまだ楽観的で、21世紀になればエイズに対する
特効薬も生まれているのではという希望的観測のもとに書かれている。
状況はそんなに明るくなっていないが、あまり日本人(とりわけ美術)はエイズと美術の関係、などが
あまり公けに発言されていないのではないか。
そういう意味でも大変貴重な本だと思う。