「移動性を持った仮想の視線」をやさしく言いかえれば「目玉の世界旅行」とでもなるだろうか。すなわち、たとえ身体は一箇所に留まったままでも、目玉だけが視覚メディアの力を借りて外国でも宇宙にでも出かけていく仮想の旅のこと。
視覚メディアと言っても、この本で取り上げられるのは映画やテレビだけではない。ショッピングモールや自動車、テーマパークまでもが「目玉の世界旅行」を可能にしたテクノロジーとして見直される。19世紀から現代に至る視覚メディアの文化史を、ポストモダン世界の大衆消費社会の成立史として大胆に読み直すことで、私たちの生活と思考を条件づける「視の制度」のありようを透視してみせてくれる好著である。
よく言えば才気煥発、悪く言えば散漫で飛躍が多い著者の論述のスタイルに馴染めない人も少なくないと思うが、今日のメディアや消費生活のありかたに対する著者一流の鋭い批判を読み取って共感する読者もまた多いだろう。図版も多く訳文もこの種の本としてはよくこなれていて読みやすい。