ニコライは物悲しい。
自分の仕事を淡々とこなしていくニコライ。
時々見せる彼の表情がたたずまいが、物悲しい。
ウラル山脈を越え、キリルの下で働くに至るまで、彼はそれまで何を見てきたのか。
ニコライの境遇は、自身から真実を語られることはない。
娼館で娼婦に語りかける。
情緒不安定なキリルを抱きしめる。
アンナに向ける眼差し。
諦めと、憐れみと、優しさと。それは深い。
傷を負い、一人ロシアン・レストランでテーブルに着く彼の見ている先には、何があるのか。
ニコライは見ていて、哀しい。
これまでのキャリア最高と評されるヴィゴの複雑な内面演技と役作り。
『全裸』が強調され一人歩きしてしまった印象のある『公衆浴場の格闘シーン』はやはり圧巻だ。
ヴィゴのサイボーグのような完璧な肢体に、繊細で美しいタトゥーが映える。
黒尽くめの襲撃者達と、相手の返り血と自身が負った傷とで血に染まっていく肌の対比。
また、『娼館のシーン』では、ニコライもキリルも娼婦も、それぞれが身を置く境遇と感情とでどうしようもなく縛られ、切なく哀しく、見ていて辛い。
薄暗いロンドンのモノトーンの街並みに、溢れる鮮血やロシアン・レストランの調度品の赤やピンクを用いた映像が美しい。この監督らしい壊れて崩れた肉片もなく、ナイフでスッパリ切り裂くのもいい。無駄のない凝縮された100分。ラストの、そのニコライのたたずまいは、切り取られた一枚の絵のように印象的だ。
おまけ:本作でのヴィゴは、ダークスーツにオールバック、サングラスとくわえタバコ。操る小道具はメルセデス(ベンツ)。
立居振舞いは紳士的でもあり、軽く手を組み立っているだけで、余裕のある大人の魅力全開だ。
ファミリーの一員となるべくタトゥーを入れるシーンでは、ソファにもたれ、彫り師に身を任せる、気だるい様子を演じるヴィゴは、どこか色気をも感じさせる。