リー・コニッツがマイルス・デイヴィス九重奏団への参加を経て師匠レニー・トリスターノから離れたのは、彼がスタン・ケントン楽団に参加した1952-53年と言われている。その理由は、同楽団に入りたかったわけではなく、47年に結婚した彼には5歳になる子供もいて生活が色々大変だったから、という話をアメリカのネット記事で最近読んでやっぱりと思った。通説どおりトリスターノ式では食えなかったわけだ。えてして演奏スタイルが変わったりすると評論家やジャズ好きは、特に昔の巨匠だったりすると妙に神格化して芸術上、技術上の理由にしがちだったが、実際は生活のためにやむなく入ったスタン・ケントン楽団での経験(強く吹かねばならなかった)が、彼の演奏スタイルをクール一辺倒からよりウォームなものに変えるきっかけになった、というのが事実らしい。おそらく多くのジャズメンの演奏スタイルの変遷の裏には、もっともらしい理由ばかりではなく、こういう人生の悲喜劇のような話がたくさんあるのだろう。
リー・コニッツの絶頂期はやはり50年代中期、スタン・ケントン楽団を離れて自身のカルテットの演奏を収めたStoryville時代の「Konitz」、「At Storyville」、そしてこの「In Harvard Square」の3つの作品であろう(いずれも1954年)。カミソリのように鋭い学究的演奏から、選曲も含めて穏やかで聴きやすいスタイルに変わっていったが、この後のAtlantic時代ほどの緩さ(普通のという意味)はなく、この時期のウォーン・マーシュと同じく知的クールさとジャズ的エモーションのバランスが最高なのだ。グリーンの美しいジャケットもあるが、私は特にこの「In Harvard Square」が中でもそのバランスが絶妙で好きだ。どの演奏も難解でもないし、気疲れもしない、非常に心地良いジャズだが、音色、紡ぎ出すライン、時折のテンションにはクール・ジャズの魅力が溢れていて今聴いても新鮮だ。またロニー・ボールのピアノも最高。ちなみに、このアルバムはライブ録音ではない。このCDはオリジナルLPと同じ7曲だが、Black Lion盤(入手可能)は、「At Storyville」のライブ音源3曲(ベースとドラムスは別メンバー)を追加した構成になっている。
リー・コニッツは60年代に不遇な時代もあったが、70年代以降は復活し、ウォーン・マーシュやサル・モスカとの共作含めて非常に数多くのアルバムをリリースしており今も健在だ。しかしネット上アメリカでは50年代のコニッツの作品に関する情報はほとんどない。日本はやはりジャズに関しては特殊な国なのだろう。私も一時凝ったが、今は彼の絶頂期の名演を古典として楽しんでいる。