本書はジャズミュージシャンを基本的な対象にしていますが、取り上げられている内容はジャンルを選ばずあらゆるジャンルに応用が効くはずです。私もジャズを専門でやっているわけではないのですが、本書は非常に勉強になりました。本書は大きく分けて、歌うことと、タップする(体などを叩いてリズムをとる)ことの二つのパートに分かれています。またそれらは一つまたは同時に行われ、読譜、視唱、採譜などの様々な課題をこなしていくことになります。レッスンの順序は良く考えられていて、簡単なことから高度な物へと移っていきます。
この本の素晴らしい点は、歌うこと、タップすることを通して音楽を頭ではなく、徹底的に体や耳で理解させていこうとする姿勢にあると思います。
また特徴的なのはこの本で取り上げられている視唱の仕方は伝統的なソルフェージュシラブル方式を使っていないということです。つまり良く知られているドレミ、、、で歌わないで、代わりにスケールファンクションを示す数字をそのままシラブルとして使います。つまりドレミではなく1、2、3、というように歌います。これは賛否両論あると思いますが、利点としてはスケール内の音の役割を調性に惑わされず直接理解しやすく、ひいては音楽の構造が把握しやすくなる、ということではないかと思います。ただ私はこの点はあまり馴染めなかったのであまり気にせず進めることにしましたが。
本書をまじめに勉強していけば、かなり高度な音楽家としての耳を手に入れることになるでしょう。
ただし、本書ははっきり言ってかなり難しいです。最後の方にになってくると、歌もタップも非常に複雑なのに、それを同時こなさければならなかったり、またそれを視唱できたりしなければなりません。つまりこの本はまったくの初学者にとっては指導者無しで理解することは非常に困難だと思います。しかしこの本を取り組んだ後ならば、耳が楽器の能力に追いつかないということは、少なくなるでしょうから、(私はそうでしたが)是非取り組んでみてほしいと思います。
また注意点としては、著者は音程のサイズに注意を払うように述べています。長六度とか短三度とかの「感じ」ですね。時々絶対音感を持っている人がこの音程の感じを無視して、fromピンポイントtoピンポイントで音をだしてしまうということがあります。勿論それも間違いではないのですが、ことインプロヴィゼイションをする場合、それはあまり面白くない結果になるようです。経験からですが。ですから私はできるだけ音程のサイズに注意を払うようにしましたし、そのことはこの本から学んだことです。またさらに進むと本書はコード進行をアルペジオの様々なパターンによって歌わせようとしますが、これらの練習は和声感の習得のためにはこれ以上ない良い方法だと思います。私は今でもこうした本書のアイディアを音楽のあらゆる場面で役立てています。
全体的に良書なのは間違いないのですが、こなれない日本語訳やもともとの説明不足がたたって、実践抜きにしては理解がありえない本です。もちろん日本語訳に関しては訳者さんには同情しますし、著者の方も難しい内容を意図したように叙述するのには苦労されたのでしょうから、批判する気はありませんが。
本気で音楽を学んでみたいという方におすすめです。勿論望むのなら、いずれさらに高度な内容に移っていくのもいいでしょう。尚、この本には2があるようですが、そっちはかなりの部分がジャズを中心としたの和声学に焦点が置かれているようです。