モルジブ諸島文化史という副題からは、硬い内容かなという印象を受ける。だが実際に読んでみると、まだ海外旅行が一般化する前の1970年代の空気を追体験できる面白い旅行記だった。大学教員の著者が夏休みを利用して、当時ほとんど情報のなかったモルジブを旅行した体験を記した旅行記だが、著者の専門である文化人類学の知識を総動員して、知的好奇心を刺激する面白い読み物に仕上げている。
特に、著者がバンコク、コロンボの安宿で知りあって共にモルジブを旅行する三人の日本人青年が、とても個性的で愛着を感じてしまった。インドで日用品の売買をしながら放浪したり、手品を見せて小銭を稼いだり、目方をごまかした悪徳商人と立ち回りを演じたり、当時の海外に憧れた日本人放浪旅行者の姿がよく描きだされている。それにしても大観光地になった現在のモルジブと違い、ガリ版刷りの新聞しかなかったという当時の姿を描いた本書は、ある意味たいへん貴重な記録だといえるだろう。