いやはや古めかしいSF用語を思わず引っ張り出したくなるほどに面白かった! ティーン・エイジャーの頃にA・ベスターやP・K・ディック・小松左京に触れて味わったあの感覚を、21世紀の現代のスクリーン上に現出させてくれた稀有な、というか今更小説じゃ無理、映像ならではのSFサスペンスの快作でした。
物語の骨組みは往年の「スパイ大作戦」だし、夢侵入というアイディア自体はそれこそ手垢にまみれた感のある2・3番煎じなんですが、 夢が深層化するにしたがってウラシマ効果的な時間圧縮が起こるというナイスなアレンジ、さらには各階層の重力変化や聴覚が呼応し始めて加速してゆくクライマックスは圧巻の一言。まさに「胡蝶の夢」が表出した瞬間でした。西欧人にはこうした多重階層は古い宗教的な世界観としての地獄とかもダブるんでしょうか。現実世界に辛くも帰還したメンバーたちが、万感の思いを込めて見合わせる顔と顔…まさにSFでしか味わうことの出来ない名シーン。
要所要所のディテールにも、映画愛に溢れたセンスが光ります。難攻不落の富豪の金庫室はまるっきりボンド映画のアジトだったり、その奥の院に仕込まれた問題のブツは明らかにO・ウェルズの…(おっと、これ以上はルール違反かな?)だったり。このエピソード一発であの御曹司のヒトの良さ(というか凡庸さ)が際立ちますよね。名作SFへのリスペクトともなれば更に枚挙にいとまなく、ラストはやはりタルコフスキーでしょうかねぇ。鍵となるトーテムの設定が哀しくも美しい。映画の終わる最後のひとコマまで「どうか…!」と願わずにはいられないアイテムでした。
まだまだ他にも、虚無に堕ちた妻の幻影のかなしみとか、サイトーを救う為に自ら虚無へと赴く主人公のカッコよさとか、映画前半で観客を煙に捲く監督の詐術の鮮やかさとか、到底語りきれない魅力がてんこ盛りの本作。ブルーレイで再見するのに最適ですね。
私的オールタイムベストにも食い込みそうな傑作に久々の☆5ついきましょう。