リーマンショックに至る、1980年代からの金融規制緩和の経緯を、政界、学界、金融業界の関係者インタビューで追ったドキュメンタリー。バーナンキ、グリーンスパン、ポールソン、サマーズなどの最重要人物は軒並み取材を断った。映画の公式サイトに行けば「取材を断った人物」の名前とプロフィールが長いリストになっている。かつて当局側にいて(息子ブッシュ時代の大統領経済諮問委員会委員長)、現在コロンビア大学のビジネススクール学長であるグレン・ハバードは取材に応じたが、インタビューの途中でキレ出す。規制緩和推進派でこの映画に協力した人物は、「おそらく出たことを後悔している人物」として公式サイトに晒されている。
とくに印象に残ったシーンは、商品先物取引委員会(CFTC)の委員長で弁護士でもあるブルックスレイ・ボーンが、1998年にデリバティブ取引を規制しようとした際、13人ものバンカーを従えたサマーズから脅迫に近い電話を受け、顔面蒼白になっていたというマイケル・グリーンバーガーの証言。グリーンスパンやルービンも強硬にデリバティブ規制に反対した。政府のなかに、良識のある規制派は少なからずいたが、金融業界の利益を代弁する規制緩和派にことごとく潰されてきたのだろう。アメリカ金融業のいびつな繁栄の陰に死屍累々である。
本作品は、2010年10月にアメリカで公開され、全米のドキュメンタリー映画賞を総なめにした。それから一年。「Occupy Wall Street」というスローガンに象徴される社会変革運動が、ニューヨークから全米、ひいては全世界に飛び火している。この映画をみるまでもなく、人々は気がついている。結局、規制緩和派の掲げる自由や繁栄というのは、彼らがやりたい放題やる自由であり、顧客を犠牲にして手に入れる繁栄であるということに。しかし、ここまで規制する側とされる側が一心同体であるということは、市民からの身を張った抗議も政府当局からは完全にスルーされるということでもあり、これはアメリカが武力によってでも布教しようとしている民主主義じたいの機能不全を認めざるを得ないのではないか。ダボスとかG20とかの場で、この映画の鑑賞会を開いたらいい。ということで、読みかけの『ショック・ドクトリン』に戻る。