華やかな女優たちの、「私を美しく撮るのがあなたの仕事なのよ」とでも言いたげな張り詰めた美しさはもちろん、映画の醍醐味でもあり、プロ意識を感じさせて良いものである。これに対しジュリエット・ビノシュは、フィルムの世界の中の住人となり、生き生きと動き、鮮烈な印象を残す。
戦争が終結した後、患者のもとへやってきて戸口に立ち、「It's raining!」と言って笑う彼女の表情は素晴らしく美しい。こんな彼女を撮ることができたカメラマンや監督は幸せだったろうな、と思う。
そして、ハナとインド人の爆弾処理屋の教会でのシーン。照明筒を手にしたハナが教会の内陣、天井近くまで宙に舞いあがり、壁のフラスコ画を照らし出す。美しく、幻想的なシーンである。
連合軍により撃ち落とされたドイツ軍の複葉機に乗っていた男は、全身に大火傷を負っているばかりか、記憶を失ったと自ら申告し、イギリス人らしいという以外、まったくアイデンティティを持たない。死期が訪れるのを待つばかりのこの男を、看護婦のハナは静かな教会の廃屋で看病し、看取る決心をする。長かった髪を短く切り、せいせいとした表情で微笑むハナは、強くすがすがしく抜けたように明るい。
ドイツ軍により破壊され、至る所に地雷が仕掛けられたイタリアの片田舎。教会の廃屋に、戦争により命をもてあそばれ、運命を変えられてしまった者達が次第に集まり、身を寄せ合う。そして、多くを語らず死を待つばかりのイギリス人患者の、失ったはずの記憶が交差する。
ハナとイギリス人患者の最後のシーン。レイフ・ファインズの目と、ジュリエット・ビノシュの泣きの演技がまた素晴らしい。