たとえば、漠然としたリゾートや高原・海をモチーフにする場合は良いのですが、実在する(した)ひとつのモデルをイメージして音楽を作る場合、気をつけなければならないのは、その意図する音楽が現地のそれと十分に合致しているかどうかということに尽きます。
このアルバムでは、かつて存在したインカ帝国をイメージしているわけですが、結局は現在のクスコの人たちの音楽から受けた印象で創作された音楽です。メンバーの一人である、マイケル・ホルムが実際に現地まで行って音楽をイメージしたとのことですが、下手をすると、かつて(今でも)、欧米人が日本の音楽と称して、「日本もどきサウンド」を奏でた時に私達日本人が感じるのと同じようなことにならないか、といささか不安になるのです。
確かに第三者が聴けば、なるほど、インカだということになるのですが、中途半端に固定観念を植え付けると、「インカもどきサウンド」が幅をきかすことにもなりかねません。
音楽性としては、彼らは確かにスゴイ腕前を持っています。パンフルートの音をシンセサイザーで絶妙に処理したり、各曲の醸し出す「イメージ」も単なる模倣の域をはるかに越えたものです。演奏力についても、彼らのその後の活躍を見れば、その実力は想像できます。
もちろん、すべてについて、この手の音楽を批判するつもりはありませんが、それでも、このアルバムから繰り広げられる「インカの世界」はやっぱり違うと思います。やはり、シンセサイザーでは人間の奏でる細かな息遣いや喜び・悲しみまでは表現しきれないのです。