ガルシラーソの『インカ皇統記』やシエサ・デ・レオンの『インカ帝国地誌』などに記された当時の多様な野菜や果物などを、あるいは、それらに手を加えた料理や飲料などを、現地を歩き続けてきた著者の豊かな食体験を通して追体験でき、自ら目にしたり、味わったりしている気分になれた。
そのおかげで、インカ時代の食事や生活が、いっそうリアリティを伴ってイメージできるようになったと感じる。
インカ皇帝や宮殿の食生活についても触れられていて興味深かった。
自然の恵みの宝庫でもあると共に厳しい自然環境でもあるアンデスの地に暮らし続けてきた人々の智慧や祈りが、「食」の中に凝縮されていると感じた。
その自然の素晴らしさも、過酷さも、身をもって体験してきた著者だからこそ描けた書なのではないだろうか。
また、本書では、「地中の芸術品」と著者が喩える驚嘆するほど多彩な外観や味覚を有する古典種系じゃがいも(著者が出会ったものだけでも210種)等の野菜や果実のみならず、インカ時代の風習や遺跡にからめて様々な肉類や魚介類も紹介されている。
さらに、インカ時代からの流れを汲む現代の現地料理の美味を探求した章もあり、アンデスの豊富な味覚の冒険を純粋に楽しめる書でもあると思う。