ジャック・タチは大好きなコメディアンで映画人だ。
愛犬を迎えるにあたって彼から名前をもらった。
Jacquesという。
けしてJackではない、名前を聴かれると説明するのが大変だが、
Jacques TatiのJacquesである。
1950年代のパリ。ロックンロールやTVが台頭し、
時代に取り残された初老の手品師タチシェフ(ジャック・タチの本名はジャック・タチシェフ)は
英国のスコットランドの片田舎に流れ着く。
そこで知り合った少女アリスは、
彼を手品師とは思わず、魔法使いと信じ込み、後を追う。
やがて二人はエジンバラの安ホテルで暮らし始める。
彼は手品師で魔術師じゃない。
けれども、目の前に熱烈なファンが
魔法を叶えてもらいたいと願えば、
それを叶えずには居られない。
でも、魔法じゃない。
彼は彼女が信じている魔法を叶えるため、
寝ずに働き彼女が欲しがっていたドレスなどを買うお金をつくる。
台詞はぎりぎりまでそぎ落とされ、
余計な説明や心理描写などはない。
ジャック・タチの喜劇映画と同様、
主人公のパントマイムのような優雅な所作が印象的で(彼の歩く姿がとてもよく似ていたのでにやけた)
サイレント映画を思わせるジャック・タチの上品な笑いがちりばめられている。
実際、主人公が映画館に入ると、
実写のジャック・タチの「ぼくの伯父さん」が上映されていて、
スクリーンのユロ氏(ジャック・タチの当たり役)を
彼が一瞬だが観ることになるシーンはジャック・タチのファンならにやけるだろう。
だが、少女が若い男性と恋に落ちた時、
映画はほろ苦い余韻を残して、幕を下ろす。
魔法はとけたのだ。
最初は喜劇だけどラストはビターな切ない映画です。