本書の主題は言うまでもなく「外科的手法」で敵の核攻撃を未然に防いだイスラエル空軍パイロットの物語。出撃から爆撃、帰還までの刻一刻が手に汗を握る生々しさで描かれている。20年後に米軍がF117ステルス爆撃機で実行したのと同じ事をステルス性のないF16で実行したこと、しかも、実行の半年前にはイラン空軍が同じ原子炉に空爆をかけ対空監視が強化されていた中のミッションであることを考えると、いかにこれが驚異的な成功であったか理解できる。
物語をさらに興味深くしているのは本書の前段。フランス、アメリカ、イランなど関係国家間の政治的経済的思惑がいかにこの地に核をもたらし、ホメイニ革命の勃発によってイスラエル空軍が空爆に必要とする機体F16を入手することになった偶然性、さらには、ヨーロッパからイラクへの核施設機材への移設やイラク科学者に対する実行されたモサドの容赦ない諜報破壊活動が克明に記されている。
「公然の秘密」であるイスラエルの核製造基地の実態、並びに国際査察団を欺いた手法。1954年にイスラエルに核をもたらしたフランスが20年後にイラクに核をもたらした皮肉。1979年フランスの港で出荷を待っていた炉心の爆破。翌年ジュネーブに滞在中のイラク人技術者のなぞのウィルス感染死。スパイ戦につきもののコールガールの活用と暗殺(映画「ミュンヘン」を思い出す)。冷戦時代の米ソの諜報活動はフォーサイスなどの小説で有名だが、こうしたノンフィクションで書かれると、その真実味が全く違う。
このミッション実行に必要な航続距離を搾り出すため、機体からは対ミサイル電子妨害装置も外され、自己防衛用のミサイルも翼端の2基のみと、実質的に敵の攻撃に対しては丸裸状態。使用する爆弾も飛行中の空気摩擦を減らすためいわゆるスマート爆弾を断念、通常の1トン弾を使用。それでもほぼ全弾ピンポイントで命中させ、かつ全機無事に帰還したのだから世界の関係筋から驚異と言われたのも当然であろう。世界で最優秀の誉れの高いIDFの実力証明というところか。
北朝鮮の核を初めとして日本を取り巻く国際環境に緊張感が増大する中、国の安全保障について考えさせられる一冊。
ただ、ある程度戦闘機や国際政治の知識がないと、ポイントに気付かず読み流してしまうかもしれない。この点だけがちょっと残念。