絵画は、1人の天才の自己表現であると同時に、時代の価値観に影響を受けたり、反発したりと、表現者と鑑賞者の間の微妙な緊張関係の中で成り立つ芸術である。絵画の担った役割や、隠されたメッセージ、または作者でさえ意識していない世相の反映を、時代背景、アングルや色調などの様式、描かれているシンボルやしぐさの意味などを手がかりに探っていくのが美術史という学問である。
本書では、4つの世界的な名画の寓意的な図像にひそかに託された真の意味を、歴史、宗教、思想、政治、経済、心理など人の営みに関するあらゆる知識を総動員して、読者と共に探っていく。よき水先案内人である著者と共に、ミステリーツアーに参加する感じだ。「美術史」という学問のおもしろさに目覚めさせてくれる本である。
本著は千葉大の教養部で実際に行った講義をもとに書き下ろしたものである。「高校生、一般向けに」とあり、図版も多数挿入されていて(ただし白黒写真)わかりやすい。内容的にも著者のたゆみない研究の成果がさらりと紹介された質のいい入門書になっている。
研究意欲旺盛で骨太な学者魂を持ち合わせながら、これだけエンターテイメント感覚あふれる文章をもものにする人は珍しいのではないか。講義は常に人気で超満員というのもうなずける。(小野ヒデコ)
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