これはスペインのヴァレンシアで生まれ、グラナダの太守に仕えている書記、イブン・ジュバイルの2年3ヶ月にわたるメッカ巡礼の旅の記録である。時は12世紀の終わり、ちょうど日本では源平合戦が行われていた頃の話。
イブン・ジュバイルはグラナダを出て、地中海を横断し、アレクサンドリアに到達。その後はカイロを通過、紅海を横断してメッカに至っている。メッカ巡礼の後はメディナ、バグダード、アレッポ、ダマスクス、アッカと各地を巡り、再び地中海を横断して帰国している。その間に見聞きしたことを詳細(具体的・定量的)に記述している。例えば、カイロではピラミッドの寸法を記録し、中の様子まで記載している。最も力の入っているのは、目的地であり九ヶ月も滞在したメッカに関しての記述で、カアバ神殿の様子や儀礼の手順について百数十ページも費やして詳しく記録を残している。
当時はイスラムの英雄サラディン(サッラーフ・アッディーン)と十字軍勢力がエルサレムを巡って闘いを繰り広げている時代である。しかし、そんな時代にもかかわらず、イブン・ジュバイルはキリスト教徒であるジェノア人の船で地中海を横断している。宗教戦争がありながらも民間レベルではイスラム教徒とキリスト教徒が共存しているというのが興味深い。