イノベーションについて、プロセスとタイプの軸をメインとして、その中に既出の様々な理論・方法論を整理した本です。
ビジネス書で扱われている知見だけではなく、社会科学の様々な領域から必要なものを集めています。従って、イノベーションのマネジメントを体系的に学びたい方にとっては価値のある本だといえます。また、イノベーションについての特定トピックについて辞書的に活用することもできます。更に参考文献がしっかり記載されていますので、本書で紹介された様々な理論・手法を更に学習するためのハブとしても利用価値があります。
但し、理論を重視した本ですので、実際のイノベーション事例や、イノベーション実践の生々しい苦労などについては最小限に抑えられていますので、臨場感を得ることは難しいと思います。
また、前提としている人間の本質については浅いといわざるを得ません。人は誰でも創造的であるとか、人は本来変化や新規制を好むとか、人は適切な環境を与えられれば誰でも成長できるといった、育ち主義(生まれ主義に対する)的な発想を前提としています。イノベーションの普及段階についてはエベレット・ロジャーズの『イノベーションの普及』(人の持つ特性によってイノベーションの受け入れられ方が異なるというもの)を活用しているにもかかわらずです。確かに本書の理論を実践することでイノベーションは加速するのだとは思いますが、人の本質部分の個人差を無視していますので、組織内の個々人の持つ特性によっては実践度合いに差が出ると考えたほうがいいでしょう。
人間の本質については、人間の生物学(脳科学・神経科学・遺伝学など)の知見が積みあがってきていますので、これらを取りこんだうえで本書を活用する必要があると思います。
更に、企業活動においては標準化・均質化によって活動の品質を安定させることが重要なものが少なくないのですが、本書はこれらの活動を無視して、全てイノベーションを起こすべきであるという認識に立っています。本書でのイノベーションには漸進的なものも含まれていますが(所謂カイゼン)、組織構造・文化の段になると、せっかくのイノベーションのタイプ分類が崩れてしまっています。
企業活動において、イノベーションの追求と効率化の追求との二律背反するものをどうすべきか、ということについては、クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』など、ジェフリー・ムーア『キャズム』など、P.F.ドラッカー『イノベーションと起業家精神』など、を体系のメインにする必要があると思います。
この点が気になりましたので、★を減らしています。
ただ、これらの点に気をつければ、本書は非常に役に立つ本だと思います。