日本でも、ある世代以上なら「青い体験」のラウラ・アントネッリを覚えている。その彼女がビスコンティ映画に出演している「イノセント」は、ずっと前から気になっていて見たかった作品。
当時34歳のラウラは、年齢のわりにあどけない表情とは相反し、豊満な肉体で圧倒的に美しかった。夫役は、最近だと「007カジノ・ロワイヤル」で渋い演技を見せたJ・カルロ・ジャンニーニ。夫の愛人役は「おもいでの夏」のJ・オニール。
貞淑な妻を信じて疑わず外で女遊びをしていた利己主義の夫が、放置していた妻の不倫に気付き、彼女が他の男の子を宿すことから、始まる苦悩と悲劇。印象的な美しい赤のドレスと壁紙、カーテンは、世紀末の官能と退廃の美の極致。
ローマのコロンナ宮殿(「ローマの休日」のラストシーンでも使用された)で撮影されたコンサートには、ビスコンティの親類の本物の貴族が取り巻いた。世紀末の貴族達の衣装、調度品にいたるまで、ビスコンティの美学が妥協を許さない。素晴らしい映像美。
無修正版で、妻の不倫相手の「モノ」をフェンシング後のシャワー室で夫がふと目にしてしまうシーンは、しっかりと映っていた。重要なシークエンス。妻を寝とった男は、貧しい階級出身の新鋭の作家。貴族階級の夫の憎悪と嫉妬に満ちた表情が物語る。夫の性格や無神論者という設定は、彼の邸の室内装飾の色や家具類とリンクしている事にも注目。
19世紀のドレスに身を包んだラウラは、無垢な少女のように美しい。ドレスを脱げば、男を狂わせるほどの魔性の肉体を持つ。ラウラの顔が少女のように可愛らしいからこそ、あまりにも痛々しく、ラストの悲劇が一層際立った。残酷なほどまでに、美しい映画。
夫の愛人テレサが黒いドレスを翻し、走り去っていくシーンは、まるで油絵のごとく印象的。これぞ芸術。