田口医師の語り+3人称文体で展開する東城大学医学部シリーズの4作目。
私は単行本は読んでいないのですが、今回の文庫版は単行本の内容に今まで未収録だった「東京都内外殺人事件」という作品をプラス(併録ではなく)したものだそうです。単行本派の方も要チェック、ということですかね。
さて、田口先生のキャラは相変わらずいいのですが、今回の作品は私にはちょっと「小説」というジャンルを逸脱してしまっているように思えました。
バチスタ事件から約2年、白鳥からの呼び出しで厚生労働省の会議に出席した田口医師。そこで彼が見聞きする医療行政決定の現場は…会議の行方は…というような感じのあらすじ。
下巻に収録の政治家の方の解説によれば、作者の海堂氏も現実にこういう会議に出席し、Ai導入のため努力なさっているそうです。死亡時医学検索の重要性は氏の小説を通じ理解できましたし、このような制度が導入されるのは良いことだと思います。
ですが…小説としてはどうでしょう。どうもこれを読んでいると、実際の会議で思うように事が進まない、そのことに対するストレス発散のように感じられてたまりません。
中盤あたりから田口の学生時代の後輩が登場し議場を華麗に席巻しますが、海堂さんはこんな風に実際の会議にも穴を開けたいんだろうなあ、とそんなことばかり考えてしまいます。
要するに個人的願望でしかない、と感じてしまうのです。そこに「イノセント・ゲリラ」と銘打つのもナルシスティックに思われる。
小説世界は小説世界でしかなく、その世界には現実と違うパラダイムがある。現実を過度に持ち込んでしまうとその場は崩壊し、世界として成り立たなくなってしまうと思います。
この作品で展開される「主張」は、「死因不明社会」のように、小説とは違う形で発表することが妥当だったと思います。
小説世界の内律に従った作品ではなく、外部世界へ向けてのメッセージなので、結部もまとまりに欠けます。海堂氏のいつものパターンでまだ先があるようににおわせていますが、ここまで現実世界と混線してしまうと、続けようがないのではと思ってしまう。
田口先生が好きなだけに残念です。