登録情報
|
素子に去られて、もう愛を注げる対象が犬のガブだけになってしまったバトーが、『自分は人に好かれることはないが、自分から人を好きになることもないので、人生のバランスは取れている(卑小化、すみません。本文はもっとハードボイルドです)』と読者に公言し、それでもなお、夢に出てきた《架空の》息子に愛することの大切さを説くという無様さ・惨めさは、とても人間臭くて切なくなります。
そして、そのガブもバトーもとを去ってしまう……。ううう、読むのが辛くなります。
また攻殻機動隊お得意のの哲学も、映画のように突然素子が語り始めるといった不自然なスタンスではなく、あくまでもガブを探す手段として、『去った理由』を考察するという必要不可欠な作業の元に浮かび上がってくる問題として、哲学を扱っているのです。それも奥が深い。
これほど練りこまれた、映画の同名小説(これやノベライズは総じてやっつけ仕事の感がる)は見たことありません。
面白いのは、映画よりも「イノセンス」という主題をはっきりと取り込んでいること(もともと鈴木Pが勝手にタイトル変えしたんだから押井監督にその気がなくて当然なのかもしれませんが)。
そして犬も物語の中心に映画以上に絡んでいます。
このあたりはあくまでも山田正紀のSF設定でのハードボイルドでありながら押井作品のエッセンスを見事に抽出していると思います。
サスペンス的な伏線と、映画『攻殻機動隊 GOHST IN THE SHELL』ばりのラストの戦車戦と、アクションも満載。
映画の関係者でもない作家が書いた映画のノベライズ(映画の解釈と単独の小説としての面白さを兼ね備えた)としては稀有の完成度です。
SF、ミステリ、ハードボイルド、サスペンスなど、全てのジャンルで傑作を連発する山田正紀の書いた小説だから当たり前かもしれませんが、ライトノベルばかり読んでいる人が本作を読むと驚くかも…。是非これをきっかけに他の山田正紀作品にも手を伸ばしてほしいです。どれも秀作揃いですから。
この小説は映画イノセンスのノベライズ版ではなく、物語としては映画版の少し前の時間に起きたある出来事を描いています。バトーの電脳の初期化、飼い犬ガブの失踪、似て非なるゴーストと魂(ソウル)、天才サイバーテロリスト「ブリーダー」、無垢な友情とその喪失感。
ハードボイルド的な一人称で語られる文体が、ガブ(と素子)以外誰も愛せない無骨な男の寂しさによく似合い、物哀しいトーンが作品全体を包んでいます。バトーの無意識化に流れるリー・モーガンの「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」の物悲しいトランペットのミュートプレイのように。
名前はよく存じていましたが、山田正紀の作品は実は初読でした。
解説で押井守が、山田氏のデビュー作「神狩り」(1974年星雲賞受賞)をまだ読んだことがないという奇跡的な特権を持つ方がいるなら、本書と併せて速攻でお買い上げ戴くことを絶対的にお勧めする、と記していましたが、面白い未読の作品を読めるという特権を享受するため、速攻で購入申込致しました。
|
この商品のクチコミ一覧
関連トピック一覧のアクティブなトピック
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|
|