本書の出版時点でイチローはまだ、MLBで3年目のプレイヤーである。というわけで、本書は「中間報告」の域を出ないが、それでも内容は充実している。普通なら単に偉人の名言レベルの話に終わってしまって、あまり印象も持ち得なければ説得力もないものだが、本書はそういった凡百の書に埋もれることなく、強い迫力を持って言葉に広がりを持たせている。その原因は、イチローのプレーの一つ一つの意味を、その試合の脈絡の中で解き明かしていく手法にある。単なる切れ切れの言葉に終わらせず、物語の中にそれらを位置づけていくからこそ、単なるスポーツ選手の域を超えたイチローの凄さが際立つのである。
それにしても、これらの言葉を紡ぎだせる能力を、イチローはどうやって獲得したのだろうか。彼はもはや、思想家か哲学者である。