イタリアは一風変わった国です。
古代ローマの繁栄はいうまでもなく、ルネッサンス期にも文明の先頭にありながら、17、8世紀には小国に分裂し、スペインやオーストリアなど大国の利害に翻弄され、19世紀にようやく統一を果たしたものの、工業化は遅れ、民主政治は未熟で、長いファシズム政権の果てに戦争に負け、戦後も何かと政治スキャンダルが絶えない、だけど最近になって数々のブランド製品で妙に気になり始めた国。私たちがイタリアについて抱くイメージはおおむねこのようなものでしょう。
近代国家としてのイタリアを特徴付ける要素としては主に次のようなことがあげられます。
1.大きな地域間格差:ことに南北の格差が大きい。北イタリアは自動車のフィアットなど近代工業が根付いているのに、南部は封建的な気風の残る農業地域で、地主のパターナリズム支配が強く、マフィアの温床にもなっている。失業対策のためによけいに公共投資を必要とするので、国民の顰蹙を買っている。
2.地域の独立性:都市国家の伝統からか細分化された地域の自治志向が強い。それは警察や治安維持にまで及び、民兵組織の伝統もある。それは極端にいえば、町内会が独自の警察や軍隊をもつようなものでした。
3.強力なカトリシズムの影響:国民の9割がローマ・カトリックの信者で、バチカンのお膝元。もとより自由主義や共産主義には反対だし、イタリア国民以外の利害も反映される超国家的政治権力。
こんな条件をかかえていれば、国家統一の多難さは眼に見えるというもの。本書が扱うのは20世紀だけですが、この百年間イタリアがいかに複雑な道を歩んできたかということがわかります。階級闘争に苦しみ、帝国主義的拡大を試み、失敗するごとに政治がゆれ、ファシズムの違法な政治暴力を許してしまう。第1次大戦ではそれまでの三国同盟を裏切って協商国側で参戦するし、ナチス・ドイツの尻馬に乗って、外交は露骨に機会主義。
にもかかわらず、別の面から見ればこれほど民主主義が徹底している国もないといえます。地域自治は草の根的に強いし、個人主義も徹底している。生活優先意識がどこより強い。こんな国が30年以上もファシズムを続けていたのが不思議なほどです(逆にいえば、それが全体主義の恐さでもある)。
ちょっと変わり者の近代国家、イタリアの現代史です。日本語で読めるものとしてはもっとも詳細に書かれた本でしょう。読み物としてもおもしろく、翻訳もいい。難をいえば価格でしょうか。