イスラームの歴史を,その誕生からアフガン戦争,9/11事件まで,「ジハード」をキーワードに解説しています.「聖戦」と訳されるジハードの本来の意味は,公正な社会実現のための「奮闘努力」であり,必ずしも武力(剣のジハード)を意味するのではなく,自らの内面の悪を正す「内面のジハード」という面が重要であるということがまず述べられます.著者の長年の研究成果をもとに,教科書的な知識を丁寧に復習しながら,著者独自の視点も交えて詳しく,しかし一般の読者にもわかりやすくイスラームの歴史,現状を論じています.
通読すると,イスラーム世界を軸として世界史を見通しよく再構築できると同時に,スンニ派/シーア派の違いといった基礎知識にとどまらず,なぜウサーマ・ビン・ラディンはあのような手段に出るのか,パレスチナ問題は今後どう展開するのか,テロ社会はどうしたら解決できるかなど,現実の問題を自ら考えるための数々の手がかりが得られます.単に知識欲を充たすだけでなく,現代の世界情勢をバランスよく考える材料を与えてくれるという意味で,一読,熟読に値する良書です.