大手書店に行くと、多くの「イスラーム世界」を冠した題名の書籍を見ることができます。特段疑問もなく流通している「イスラーム世界」という言説への疑問が本書の内容です。
本書は、イスラームの史書・地理書の歴史を通じた、イスラームの世界観の変遷、欧米のイスラーム史研究によりどのように現代イスラーム世界像が形作られてきたか、日本での「イスラーム世界」の受容史が扱われています。史書・地理書の歴史を通じたイスラームの世界観の変遷、欧米研究史については、
記録と表象 史料が語るイスラーム世界 (イスラーム地域研究叢書)でも扱われていて、本書掲載の地理書史は、「記録と表象 史料が語るイスラーム世界」の地理書史とほぼ同じ原稿なのですが、本書の力点は、ペルシア語圏の史書・地理書による世界認識は、アラビア語圏のものと異なって発展し、そもそも「イスラーム世界」は一枚岩ではない、というだけではなく、そもそも「イスラーム世界」という概念が、近代西欧にて成立し、イスラーム圏に逆輸入された点の論証に置かれています。
著者は本書において、現代において、「イスラーム世界」という言説自体が、思考停止や先入観に結びつきやすい状況にあり、現代政治のみならず、歴史学にも先入観と影響を与えてしまっている情況に疑問・警鐘を促しています。