アガサ・クリスティー、シュリーマン、トロツキー、乃木将軍、そして芦田均。とりとめもなく内外の有名人を並べているように思われるかもしれませんが、これらの人々は何れも縁あってイスタンブールの地に滞在し、トルコという国と行きがかりをもった人たちです。彼らがこの偉大な街を訪れた19世紀末から20世紀の初頭にかけて、トルコは革命と戦乱に見舞われ、正に大きな歴史の境目にさしかかっていたのでした。
本書は、これらのビッグネームを含む12名のセレブをとりあげ、彼らとイスタンブールとの関わり合いをエピソード風に紹介しつつ、帝政末期の混乱と革命、そして新生共和国の創建と発展という、現代トルコの激動の歩みを紹介するものです。
著者はトルコ駐在通算12年間、うち7年半はイスタンブールに勤務という経験を誇る外交官です。著述を本職とされる方ではありませんが、外交上の問題意識とご自身の豊富な経験に裏打ちされた視点は極めて鋭く、それでいて語り口はどこまでも平易です。特に、人物のエピソードを、現代トルコ史をめぐる重要問題との組み合わせの中で語るという構成の妙と整理の良さには、特筆すべきものを感じました。
内容的に最も興味を惹かれたのは、共和国発足当時にイスタンブールで民間外交を展開した山田寅次郎氏に関する逸話です。情熱と侠気に生きた明治人の面目が躍如しており、日本人として、読んでいて元気になるような、とても良いお話でした。
世界でも屈指の親日国家トルコ。現代におけるその壮烈で複雑な歩みを知るために、本書はまたとない入門書と言えるのではないでしょうか。