読みやすい歴史書は多々あるが、読みやすくして面白く、かつ既知の常識の呪縛から読者を解き放ち、加えて歴史を学ぶことが現在を捉え直す契機となるような書物はそうあるものではない。しかし、碩学の語り下ろしを元にした本書は、正にそういう一書である。読めば分かる。
「消費の側から見れば、成長を推進してきたのは、都市化そのものなのです」(82頁)。
「「経済成長」という概念は、ヨーロッパを中核として成立する近代世界システムの基本イデオロギーだというのが、私の見方ですが、したがって、時系列数表もまた、ヨーロッパに誕生します」(110頁)。
「需要の問題、つまり綿織物はなぜ好まれたのかということを見ていくと、必然的に生活文化の問題になってきます」(159頁)。
「しかし、そういう考え方にしたがえば、イギリス人が勤勉に働いて、禁欲的にして、できたものは誰が買ったのかという問題が残ってしまいます。消費需要の拡大が説明できないのです」(197頁)。
「この人も、「衰退はない」という議論ですが、「衰退感」はあるというのがその主張の特徴でした。サップルが問題にしたのは、人間の欲望はどんどん拡大していく。右肩上がりに上がっていかなくてはならないという、先に申しました「成長パラノイア」です。生活レヴェルは上がっていかなければならない、という欲望はあるのだけれども、それに対応した経済成長ができていない。そこがイギリス人の「衰退感」の原因であるというのがサップル教授の見解です」(248頁)。
本書を通じ、ジェントルマンの定義(=貴族及び平民たるジェントリから成り、有閑階級として独特の教養と生活様式を維持することが求められ、一部はやがてシティと一体化していった当時の大地主たち)や経済合理主義だけで産業革命が発生した訳ではないこと(177〜185頁、例えば社会的間接資本の担い手の問題)など、非常に多くを学ぶことができた。