大変読みやすい文章で書かれ、随所に工夫がみられる良書。
ただ、著者の回顧的な自慢話が最後まで続き、タイトルが「心」となっているものの、肝心の心についての話が避けられているのが大きなマイナス点である。
例えば、心を構成する主要な要素である反射行動や感情表現について触れられておらず、そもそも心をどのように定義して議論するか著者自身がよく分かっていないようにみえる。
動物の心や精神の議論は西欧哲学、近代の認知心理学を含めれば長大な歴史があるにも関わらずそれがあたかも無いかのように話が展開される。鏡の実験の結果からいきなり霊長類との比較に話が飛んでいて、近年研究が進んだ昆虫、魚や両生類との比べ方も紹介されていない。そもそもイカの脳がどのようにサルの脳と類比できるのか本書を読んでも不明である。
また、ウェブで調べてみると日本にはイカの眼や神経生理についての研究が古くから今にかけて多数あり、行動生態の研究も多く見つかる。しかし書き方としてまるで著者一人がイカの心理研究を開拓したかのように記され、何故かそれらにはほとんど触れられていないのが残念である。
このような欠点はあるものの、科学書の読み物としては良い出来でイカという身近で意外に知られていない動物の行動研究に挑んだ作品として十分に楽しめる。
ヴォ−クレールの動物の心の本やダンゴムシの心の話と一緒に読めば一層理解が進むように思う。