『イエメンで鮭釣りを』面白かった。
<信じることを信じられるようになるために>主人公のジョーンズ博士はずいぶん多くのものを失ったわけだけど(鮭プロジェクトに関わる前に持っていた、世間的な「いいもの」はほとんど失って)、それで代わりに得たものに彼はまんざらでもなさそうなのが痛快なのだ。
世界は刻一刻と生まれ変わり、小説は反映する。
ジョーンズ博士のアシスタント・ハリエットの恋人はイラクへ出征してそこで汚い作戦に利用されて命を落とす。そのショックでハリエットは博士のもとを去り、ジョーンズ博士は失恋を経験することになる。アルカイーダの傍受メールが飛び交う職場の混乱のなかでも、実直な水産学者のジョーンズ博士は、鮭の稚魚を砂漠の大河に放流するというバカげた国家プロジェクトを投げ出さない。
この小説は最後まで読んだほうがいい。ラストで鮭をイエメンで放流するシーンは文章を読んでいて圧巻だった。すべてを失って、もしかしたら最初で最後の恋も失って、それで彼のなかに最後に残ったものが鮭プロジェクトの皮相な顛末である。偉大なるマスターマインドであったシェリフの最後。そして物語そのものの不可解さを象徴するような関係者の態度の激変。しかしシェリフがジョーンズ博士の記憶の中に残して行ったもの・・それが「信じるこころ」であった・・という大人のための小説である。こうして書くとバカみたいだが、読者を納得させてしまうのが作者の力量。
しかし作者は、砂漠の国イエメンに行って、鮭の稚魚を放流するというプロジェクトに巻き込まれる水産学者の小説・・なんてどうやって設定を思いついたのだろう?