本書は、「人類の知的遺産12 イエス・キリスト」(講談社,1979)を、同社学術文庫版での出版に際し、上・下巻に分けて出版したものです。
「人類の知的遺産版」は、かなり古い本ですが、対観表の存在すら知らなかった私にとっては、本書はとても勉強になりました。その後、使徒的教父資料・新約外典の一般向け翻訳、岩波版聖書の出版へと突き進んでいった著者(のグループ)の気概も伺えます。
「II部 イエス・キリストの言葉と業」では、共観福音書を、1)主の言葉(「ロギア」「預言的・黙示的言葉」「律法の言葉・教団宗規」「『私』言葉」「譬」2)アポフテグマ(「論争」「対論」「伝記的アポフテグマ」3)物語(「奇跡物語」「歴史物語と聖伝」)の観点から整理しなおし、福音書引用部分は対観できるよう割付けられています。(時にトマス福音書まで併記されるのは著者のお考えでしょう)。そこに著者(や内外の学者の説)による解説が入ります。これは勉強になりました。ただし、紙数の制限なのか、詳説にまでは至らず、また、著者の主張の根拠がどこにあるのか明示されていない場合が多いのが惜しまれます。(一見すると学術書スタイルなのですが・・)
また、面白いと思ったのは、本書全体の記述から、「誰が」「誰の説」をどのように継承し、どのように「展開していったのか」等々、発行当時の「日本の」新約聖書学業界のおおよその動向が、把握可能なことです。特に、著者と田川建三氏との現在の関係(笑)を理解する糸口となったのは、望外の収穫でした。他章にも散見されますが、「III部1章 マルコによるイエス・キリストの生涯」はまるまる一章を費やした田川氏への反駁でしょう。以降、袂を完全に分かつことになったお二人。勝敗は個々の読者が決めることですが、オリジナリティという観点からは、、軍配は田川氏に上がると思います。