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これだけを書くとありふれた事しかこの小説には書かれていないと思えるが、そこに至るまでの話の運び方が秀逸である。様々な紆余曲折、イエスの孤独な悩みの描写を経たのちに辿り着くこの結論は、ただ結論だけを述べられるよりも遥かに分かりやすさと深みを持って理解される。
著者は聖書で語られているイエスの奇跡描写の言及を極力排し、あくまで一人の人間を見る目でイエスを見つめる。そこには奇跡を行うことで、苦しんでいる者を具体的な苦しみから直接救うイエスは描かれていない。
苦しんでいる者は、病気などの具体的な苦しみよりも、むしろ誰からも愛されないという苦しみが根本にあると言う事をイエスは熟知していた。そして深く同情し、自らが彼とともに苦しむ事によって彼の根本の苦しみから解放しようと言うのがイエスの愛だ。奇跡的な側面を描かない事で、このような『愛』の構造がより深く理解できる。そしてこのように描写されたイエスは、いっそう人間的な魅力を持つ人物として我々の目に映る。
この他にも、このような考え方のイエスがなぜ当時の人々に全く理解されなかったか、ユダはどんな感情の変遷を経た後にイエスを裏切ったのか、などの興味深い事柄が、遠藤周作の独自の、しかし非常に真実味を帯びた語調で語られる。
とかく奇跡を崇拝する宗教だと誤解されがちなキリスト教だが、この作品ではキリストが崇拝される理由を、極めて人間的な部分においている。ゆえに宗教は信じないと力んでいる日本人にも違和感なく受けいられる。キリスト教をただ崇拝するだけでなく客観的に見る事が可能な日本の小説家だからこそできた事だろう。
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