時代も地域もべらぼうに広い民族の興亡を手際よくまとめた好著。読者にクリアな展望を与えうる実力は一朝一夕では身につかないので、この著者、たいしたものだ。玉石混交の講談社選書からもときにこういう本が出るから、まんざら捨てたものではない。
長大な時間軸の中で固有名が錯綜するので、メモ風の図表や地図があるのは嬉しいが、地図がすべて見開きになっていて、肝心の部分がノドにかかり見づらいのはいただけない(もっとも、これは編集者の不手際)。教科書だからといって無味乾燥なわけではない。『コナン』の背景にキンメリア人の伝説があるだの、露鵬・白露山兄弟はオセット人の末裔だのといった愉快な薀蓄も傾けられていて飽きない。宮崎市定や井筒俊彦の所説に、臆することなくやんわりとダメ出しをする侠気も好ましい。
ペルシア語やソグド人の歴史的・文化的貢献とかイスラーム古典哲学の故地としてのソグディアナといった、実に重要なトピックに目配りが効いているのもすばらしい。さすがにナチスのアーリア至上主義には深入りしていないが、その欠はたとえば横山茂雄の『聖別された肉体』やらゴドウィンの北極神秘主義の本などで補えばよろしかろう。
どの版元も選書のラインナップには苦労しているようだが、せめて本書くらいの水準で揃えていくという気概を見せてほしいものである。