インバル/都響によるブルックナー交響曲第8番第1稿のCDを聴いて、聴きなれた第2稿との違いに驚いた。その後いろいろ調べているうちにブルックナー交響曲の版問題が結構複雑なものであることが少しずつ理解できてきた。それまで版の違いを実際に音で聴いたことはなかったので、このCDとの出会いは小生にとって貴重なものとなった。本書はたまたま書店でみかけ購入したが、ブルックナーについての優れた解説書であると思う。版の違いを詳細に解説した本ではないが(そのような書は、楽典を本格的に勉強したことのない小生には読み通せないであろう)、ブルックナーという等身大の人物像を多くの文献に基づいて生き生きと描いている。ブルックナー音楽の宗教性(カトリック)、自然や宇宙への共鳴はよく語られるが、ゲルマン民族としての原初の血が作品の中に脈々と息づき、ブルックナー交響曲のエネルギーの源となっているという趣旨の著者の考察は、小生にとって新鮮でしかも説得力を感じる。最近初稿によるブルックナー交響曲演奏のCDが増えていることと、本書のようなブルックナー音楽の本質に対する新たな見方は無関係ではないと思わせる。