ギリシャ悲劇の一として、云わずと知れた古典中の古典。訳文は読みやすいとは云えないが、何度も読めばじわじわと意味が立ち上ってくる。その瞬間がよい。素直に読んで、アンティゴネーとハイモンの悲恋や父たる王(クレオン)の寂寥に落涙するもよし、「自然法と人為法」(102頁)という観点から思想史上のドラマとして読むもよし。(即ち、「いったん国が支配者を選んだならば、事の大と小とを問わず、また正しかろうと、なかろうと、これに服従するのが当然」(47頁)として「人の法」の優越を説いていたクレオン王が、予言者テイレシアスの言にふれ、「天の定めた掟を守って、一生を終えることこそ、いちばんによいことではないか」(75頁)といわば「神の法」に改心するとき、それは来るべき時代に花開くキリスト教倫理への道を、知らず知らずのうちに先取りしていたかの観がある。)本文数十ページの小劇に過ぎないが、その世界はとてつもなく広い。