著者は上智大学アンコール遺跡国際調査団(Sophia Mission)のリーダーとして1961年以来アンコール遺跡群の調査・修復・保存にかかわってこられた。特に1991年には「カンボジア人による、カンボジアのための、カンボジア遺跡保存修復」のための人材育成プロジェクトを立ち上げた功績はおおきい。
そんなアンコール遺跡の権威によるこの本は、しかし、「アンコール・王達の物語」というタイトルに惹かれて軽い気持ちで読み始めると期待は裏切られる。「碑文・発掘成果から読み解く」というサブタイトルの方が内容をよく表しているのであって、物語的なアンコール王朝の通史ではない。その意味ではアンコールワット、アンコールトム観光ツアーに参加しようという一般的な旅行者に取っては決して読みやすい本とは言えないだろう。
文体的に気になる点は、同じく石澤教授の編著「アンコールを読む」にも見られるのであるが、ところどころ接続詞や移行語が欠落しているようなところがある点である。調査のフィールドノートから断片的につぎはぎしたような箇所があるということである。しかし、それがこの本の価値を低めると言うことではないのであって、アンコール遺跡をじっくりと見てこようという旅行者にとっては、素晴らしいガイドブックであるにはちがいない。
(乱読太朗あらため呑気泡亭 神奈川県)