今回のDVD-BOXによって、始めてアレクセイ・ゲルマンの4本を、製作順に連続して観ることができた。
内容の分りやすさ、あるいは緊迫したストーリー展開など、全てにおいて最も完成度が高いのが『道中の点検』(1971)であった。監督の父で作家ユーリー・ゲルマンの小説を映画化したもの。パルチザン部隊に投降した男は、疑惑と信頼の二重の狭間で葛藤を強いられ、ドイツ軍の車を襲撃する仲間にされる。更には、パルチザン内部からの疑いを晴らすために、列車の奪還に至る過程の迫力は凄い。15年間ソビエト連邦下の検閲を受け、公開できなかったいわくつきの作品。
『戦争のない20日間』(1976)は、休暇で疎開地タシケントを訪れる従軍記者の、抑制された行動にキャメラが寄り添う。離婚した妻と現在の夫との再会、帰省の列車で乗り合わせた女性との擬似的恋愛、従軍記者の記録が映画化されている様子も映される。一見平穏な休暇の日々の前後にはドイツ軍の爆撃が描かれ、束の間の日常が強調されている。4本の中で一番安心して観ることができる作品。
『道中の点検』と同じく父の原作「ラプシン」をもとに製作された『わが友、イワン・ラプシン』(1984)は、30年代に時代設定された虚構空間に、スターリン圧政下の異様な雰囲気を反映させている。パートカラーが何か所か挿入されているが、スターリニズム批判として敢えて色分けしているのかも知れない(推測です)。
さて、もっとも厄介なのが『フルスタリョフ、車を!』(1998)である。全編長回しのカットで構成されている。混迷する多くの人物が入り乱れる、ポリフォニー的(バフチン)・祝祭的(山口昌男)に描かれているため、観るものに戸惑いと混乱をもたらす。評価が分かれるフィルムだが、登場人物たちの過剰なる振る舞いはパワフルで圧倒される。スターリンの死をクライマックスに持ってきているところで、辛うじて理解できた。長回しのキャメラは溝口健二のように俳優たちの感情の起伏を捉えるものではなく、移動撮影を人物の躍動感や空間の演出に用いているように思える。
ゲルマンにとって、検閲なる制約から解き放たれ、これまで表現できなかった思いを全て『フルスタリョフ、車を!』に投入したのではあるまいか。<表現の自由>を獲得したとき、どのように振るまうかが芸術家としての力量が判断されるメルクマールとなる。抑制の美学が『戦争のない20日間』に自己検閲として働いたとすれば、作風の極端化に走りつつも、自由奔放の困難さを『フルスタリョフ』で実感したはずだ。
以上より、作品の完成度という点から、『道中の点検』がマイ・ベストとなる。
ロシア映画を代表する監督といえば、タルコフスキー、ソクーロフ、カネフスキー、それにアレクセイ・ゲルマンだろう。さらに、映画史的にはモンタージュ理論を確立したエイゼンシュテインを加え、5人としておきたい。
DVD化が最も遅れていたアレクセイ・ゲルマン。現時点での全作品のDVD化は有難い企画であり、寡作な監督ゲルマンの4本は、いずれも必見のフィルムであることを強調しておきたい。