精神分裂病患者が我々と異なる内部時間感覚を持っているという説に基づき、自閉症児マンフレッドを見事に描いた「火星のタイムスリップ」と同時期に執筆された作品だけに、ディックはこの当時、精神病に実用的有用性があるのか、とのテーマに関心を持っていたようだ。
もちろん、そういった面白みもあるのだが、この作品の一番の魅力は、脇役のキャラクターのすばらしさにある。
他人の心を読んで的確な指示を出してくれるガニメデ星の粘菌クラム。5分間だけ限定された周囲の時間を戻すことができる少女ジョウン。
この両名は、なぜかダメダメな主人公を見捨てず、彼を助けるために危険を顧みない。
最初はクラムを嫌っていた主人公も、最後はクラムの命を必死で助けようとする場面は感動的だ。
また、デビュー作「偶然世界」でも取り扱われたシュミラクラを遠隔操作して殺人を行うという設定も、相変わらずおもしろい。
「火星の〜」「パーマーエルドリッチ〜」などの大作の影に隠れ目立たない作品ではあるが、ディックファンなら見逃せない一作だ。