奇抜かつ独創的な才能を持つ中村九郎による怪作。
1番球から9番球の所有者を順に自動的に殺戮する神話の遺産、「αのローテーション・キス・ショット」に巻き込まれその3番球となってしまった主人公は、黒園葵と名乗る運命の少女と邂逅する。
この作者の作品はややもすると読みづらいという評価を受けがちですが、それはその独特の言語感覚・物語感覚のためであって、先鋭的作家によるライトノベルを求める読者ならば一読してみて損はない内容だろうと思います。
とまぁ、とりあえず書き出してみたものの、この作品の独特の魅力を表現するという作業は困難を極めますね。一部で熱狂的人気のある作品にも関わらず他にまともなレビューがついていない理由が分かってきました。
困難ながらも続けてみましょう。
まず最も大きな魅力として挙げられるのは、物語に関する独特の感性でしょう。一見脈絡なく見えるほどに物語が唐突に逸脱して緊張を帯び、輝き始める様は圧巻というほかありません。異常な瞬発力と変なキラキラ感は感性が合いさえすればかなりの中毒性があり、少数ながら熱烈なファンがいる理由はこの点に拠ると思います。
それから、一読して全て気づくことが不可能なほどに縦横に張り巡らされた言葉遊び的表現の網の目もまた、魅力として挙げるべきでしょう。
ただし、暗喩として書かれるものや詩的な表現、飛躍した表現が多く、読書慣れしていない読者だと何が書かれているのか理解できない部分も多数あるように思います。感性が合えば極上の味わいを持っているだけに残念ですが、このあたりがこの作者が時に酷評を受ける原因となっているのでしょうか。
この作者の作品は、『黒白キューピッド』や『樹海人魚』など拙さや読みづらさが先に立つ、厳しく評価せざるをえないものも多いのですが、本書や『神様の悪魔か少年』、『ロクメンダイス、』といった力作もあり、もっと評価されても良い作家だと思います。
この本はライトノベルの中では屈指の好きな作品なのですが、かなり読者を選ぶということと、荒削りな部分が目立つということで、☆4つの評価としておきます。