アリス・クラーク
かつて『幻の・・・・』と形容された謎の黒人女性シンガーの現存する唯一のアルバムである。
このジャケットを見よ!
何を思うのか、やや俯き加減のこの儚げな佇まい。
72年にMAINSTREAMから発表されたアルバムは、ほとんど話題になる事もなく凡百のアイテムとともに埋もれていたが、90年代のFREE SOULムーブメントを通じて5『Never Did I Stop Loving You』と7『Don’t You Care』がコンピレーション盤に収録されたことにより、そのあまりの素晴らしさでこの幻のアルバムは一気に知名度が上がり、94年に初CD化された。
肝心の内容ですが・・・・・大傑作です。
何故売れなかったのか不思議なくらいの素晴らしさです。
何よりも先に触れなければならないのがアリス・クラークというシンガーが持つ圧倒的なポテンシャルの高さです。
ゴスペル出身者のようなパワフルな声量がありながら、どこか上品さと清純ささえ感じるそのヴォーカルの素晴らしさこそがこのアルバムの最大の魅力であろう。
シャウトしても決してメロディーラインは崩さず、独特のタイム感と相俟って、メロディアスな楽曲を限りなくエモーショナルな世界に仕立て上げる。
7『Don’t You Care』のような難しい曲を、抑え気味な可愛らしい歌いだしから、徐々に感情を込め細かいシャウトを入れながら盛り上げていき、しかし余力を感じさせるヴォーカルにはすっかり参ってしまう。
9『Hard Hard Promises』とともに、この2曲がBobby Hebb作のオリジナルで、残り8曲がカバー曲である。
1『I Keep It Hid』はJimmy Webb作品。アリスのエモーショナルなヴォーカルを聴いた瞬間名盤であることを確信した曲である。
2『Looking At You』はペチュラ・クラークの歌唱で知られるムーディーな曲を極上のSOULフィーリングあふれる名曲に仕立て上げている。
3『Don’t Wonder Why』はご存知スティービー・ワンダーのオリジナル。
4『Maybe This Time』はライザ・ミネリの代表作。
この2曲は1とともにオリジナルを遙かに凌ぐ素晴らしさである。
10『Hey Girl』はダニー・ハザウェイの名作ライブからの1曲だが、どちらかと言えばアリスに軍配を上げざるを得ない。
5『Never Did I Stop Loving You』は7とともに超名曲である。ベースラインがうねりドラムスが呼応し、ブラスセクションが大活躍するこの曲は、思わず腰が動いてしまう名曲だ。アリスはこの難しい曲を余力を持って軽々と歌いこなしている。
特筆すべきことは、このアルバムの演奏の素晴らしさだ。
うねるベースと弾むドラムス、タイトでありながら楽しげなこの演奏はまさにプロの仕事だ。
ブラスアレンジの見事さも光る、決して技巧的にはならず太いラインが効果的だ。
あの頃のアルバムには決して珍しい事ではないのだが、この見事な演奏陣はノン・クレジットである。
噂ではバーナード・バーディー、ゴードン・エドワーズ、コーネル・デュプリー、テッド・ダンパーが参加しているらしい。