個性派監督たちの競作が楽しめるオペラ版ミュージッククリップ集のような映画です。ニコラス・ローグのヴェルディ『仮面舞踏会』では当時もっともセクシーな女優のひとりだったテレサ・ラッセル(たしか監督の奥さん)の「男装の麗人」っぷりが拝めます。ゴダールのリュリ『アルミード』は女性不信の彼らしいちょっと皮肉な女性讃歌で、人を食った場面設定と縦横無尽な音楽の使い方に舌を巻きます。ロバート・アルトマンはラモー『アバリス』で貴族たちの狂乱をグロテスクに描きだし、アルトマンってこういうのも撮るのか、と驚かせられました。フランク・ロッダムは無名時代のブリジット・フォンダを主演にワーグナー『トリスタンとイゾルデ』の愛と死を現代のラスヴェガスに見事に蘇らせてみせます。クラシックの作曲家をテーマにすることの多いケン・ラッセルが選んだのはプッチーニ『トゥーランドット』、さすがに演出、美術、展開ともに最も完成度の高い作品に仕上げています(この作品のすこし前に交通事故で若くして亡くなった女性スタッフへの鎮魂歌としてつくられた作品だそうです)。個人的にはシャルパンティエ『ルイーズ』にのせて老女が回想する若き日の夏の恋を8ミリフィルム撮影で描いたデレク・ジャーマンの一編がとても美しくて心に残りました(ティルダ・スウィントンが出ているんですが、この人この20年以上全然変ってません)。他の監督の作品もいい出来です。映画だけでなくオペラも好きな方は十人十色の「声」を堪能できると思います。