1907年に発表された紀行文の名作。《大人の本棚》シリーズのなかの一冊として刊行されている本書は、現代を生きるわたしたちにも大変読みやすい、みずみずしい訳文に仕上がっています。
この紀行文の価値は、シングが異文化に出会った喜びをかくさず、主観的に理想的に島を描いていること。 シングの文章を読みおえると、まるで読者自身が百年前のアラン島を旅したかのように、島の景色や島人たちの姿を、懐かしく思い出すことができます。
シングがイニシュマーンで寄宿していた家の、古ぼけたキッチンの味わい。おかみさんが作ってくれるお茶や食事。寄宿先の息子でゲール語の先生であるマイケル青年や、ストーリーテラーであるパットおじいとの友情。 シングの演奏するフィドルで、ダンスに興じる島人たちの、心から楽しんでいる様子…。
こうしたシング青年のアラン島での経験は、のちに『海に騎りゆく者たち』など数々の戯曲に結晶し、遠く日本でも、歌人・松村みね子の翻訳で紹介されることになるのです。
なおこの本には、アラン島の雰囲気を伝える味わい深い挿絵が付されており、これが何と詩人W・B・イエイツの弟、Jack.B.Yeatsの手になるものとのこと、見逃せません。