博覧強記の著者が読み解く美術講義
鬼才が人類の起源にまでさかのぼってつづった美術史講義。
まずは、ヒトがなぜ絵を描けるようになったかという根源的なテーマに迫る。
絵を描くという「発明」は、言語の獲得に匹敵するほどの重大な影響を
人類に与えた出来事だった。3次元(立体)の現実の眺めを2次元(平面)に変換する
という課題を克服した人類は、2万年前にはすでに遠近法を用いて絵を描いていたという。
ニューヨークの自然史博物館のホールに展示された壁画を描く
ホモ・サピエンスの図を取り上げ、なぜ彼らが暗黒の洞窟の中で
わざわざ火をともして絵を描いたかに注目する。
マンモスをはじめとする生身の生物を2次元に正しく変換するためには、
火によって洞窟内の岩壁に映し出される影が必要だったのだという。
そんな絵画発明の起源を描いた18世紀のデイビツド・アランの作品をはじめ、
ムンクやダリ、そして歌川国芳の浮世絵が江戸小牧の紙型までを教材にしながら、
西洋と東洋の影に対する考え方の違いや、影から絵の描き方を学んでいった
西洋の画家たちの軌跡など、影と美術の関係を論じていく。
その他、幕末から明治にかけて左官職人によって始まった日本固有の
壁装飾「鏝絵(こてえ)」を手掛かりに「うわべを飾る芸術の発生とその意義」を
考察した装飾芸術論や、戦国から江戸のアートシーンをリードしたバサラ大名や、
ナチスドイツが実行した「退廃芸術」排除運動、そのシンボルである「退廃芸術展」などから、
ヒトはなぜ悪趣味を求めるのかを論じる一方で美醜の起源とその消滅にまで触れる。
古今東西の美術品はもちろん、思想哲学から文学までを俎上に載せ、
博覧強記の著者ならではの視点で美の迷宮を案内してくれる読み応え十分のアート本。
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