本書は、物議を醸す(著者の)思想的ポイントを突こうとするインタビュアーに、巧みに応えていく著者の発言や、巻末の訳者による『トッド人類学入門』などが、短時間で読み通せる程度にわかりやすくまとめられ、トッド思想のよき入門書となっている。ここから読者は、さらに彼の主著へと強く誘われるに違いない。
著者は、人々の生き方をより決定づけのは、経済(経済システムとか経済力、豊かさとか)よりも人々が育つ家族構造や教育水準(識字率)に大きく影響されると考える。
著者は、ある日、ソファに寝ころんでいたとき、頭の中で二つの世界地図が重なり合うのが目に浮かんだと語る(P.138)。一つは最盛期の共産主義(国家群)の分布図。もう一つは、(所属集団外の配偶者と結婚した)息子たちがみな親の元に残って遺産を均等に分配する、外婚制共同体家族の分布図。この家族制度では、親子関係は権威主義的で、兄弟間の関係は平等主義的なのだ。権威主義的な平等主義とは、まさに共産主義イデオロギーだった(人民は平等だが、指導者へは服従!)。この家族型分布図はカラーで本書巻末に添付されているが、(旧)共産主義(国家群)分布図との類似が、まさに驚異的だ。
さらに、ドイツや日本等の家族は別の異なる型で捉えられ、そこからのナチズムや軍国主義イデオロギーの派生が、これもまた説得的に説明される。これら見事な一連の手さばきからは、「もっと詳しく知りたい」という気持ち(知的好奇心)がごく自然に生まれる。
トッド理論は、彼がソファに寝ころんで「一種天啓のごときものを得た」ように、目から鱗が落ちる(わかりやすい)鮮やかさを持ち、読者もそれを自然に(心地よく)追体験出来る。頭をこねくり回し、無理矢理作りあげたような理論ではないところこそ、大きな魅力ではないか。
ただ、わかりやすさは、当然のごとく批判に晒されやすい。そこを生き延びているのだから、彼は現実(世界の情況)を的を外さず掴んでいることになるのだろう。もしかしたら、“わかりやすさ”は、思想の“現在”に不可避に付随するのかもしれない。