本書は、時に暗黒の時代、単なる古代とルネサンスの間の時代として片付けられることもある中世に、
イスラム世界で盛んに研究・教授されていた科学の有り様を述べる。豊富な図版(写本の写真等)を用い、
図版にもびっしりと解説を付けた読み応えある本となっている。古代ギリシアの生み出した学問も、
いったんイスラム世界にアラビア語翻訳で受容され、それがまたラテン語に翻訳されてヨーロッパへ伝わった物が多くある。
中世期においてアラビア科学が近代ヨーロッパの学問を先取りしていたことがよくわかる一冊である。
まず、アラビア語が広く普及して共通語となり、各都市で科学が勃興していくさまが紹介される。
続いて、アリストテレス、ユークリッド等ギリシアのものがいかにしてアラビア語訳を通じて受容されたかを解説、
それから数学(サインコサインタンジェントの三角法や3次方程式など)、天文学とその観測、化学と医学について詳述。
何百年、時に千年以上の昔から、高度な学問が成立していたことがわかる。勿論、治療法などはヨーロッパ中世と似たり寄ったりだが、
王朝の庇護のもと学問が栄えた様子が伝わってくる。最後に、アラビア科学とヨーロッパ科学の接触を紹介し、
栄華を極めたアラビア科学の衰退を述べる。巻末には当時の文献(学術書系)の抜粋、後世のアラビア科学への評価の言葉を収録。
イスラム世界ではとうにわかっていたことを、何百年も経ってからヨーロッパで「発見」していた事は、
二度手間で非常にもったいない残念なことだと思わされた。二つの世界の交流と対立に関しても考えさせられる。