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本邦初の原文からの直訳『千夜一夜物語(アルフ・ライラ・ワ・ライラ)』でもお馴染みの同氏の作品が、いま再び文庫版で読めるとは喜ばしい限りですが、子供の頃に読んだ本書は何故か氏の著作のなかでは「とびっきり面白い作品」という訳ではなかったことを覚えて居ります。
『玄奘三蔵』や『アラビアの医術』、『イスラム世界』等々の同氏の他の諸作は、夜眠るのも忘れて読み通したというのに、これはどうした訳でしょうか。
理由の一端は当時巷間に出回っていたリチャード・バートン卿の英訳版からの翻訳書『千夜一夜物語』(本文というよりも、その注ならびに「ターミナ!ル・エッセイ」)が余りにも面白くて、そちらに気をとられていたことと、本書の冒頭2章が千一夜成立論に割かれていて子供にはさほど興味が惹かれなかったことなどが考えられます。
しかしながら、この度ふたたび読み返してみると、本書の醍醐味がよく分かり、改めて氏の筆致の素晴らしさに感嘆させられる次第。古代ギリシア・インドにまで遡って『アラビアンナイト』の成立・因果関係を味わい深く分析したこの書は、出来るだけ大勢の方が目を通されることを期待します。
本書に通底しているのは、
1 19世紀初頭からの欧米でのアラビアン・ナイト研究、諸学説を簡潔かつ平易に解説・紹介しながら
2 物語の 「型」 を中心に、アラビアン・ナイトと他の説話集 (例えば 『オデュッセイア』 ) などと比較し、
アラビアン・ナイトがどのような異文化の影響を受けて発展・成立したのかを考える態度。
研究・学説の紹介は、要点を的確にまとめてあり、「お見事!」 と膝を打ちたくなる逸品です。
ただし、「解説」 でも触れられているように、本書が講談社現代新書として上梓されたのは1970年。その後の研究で覆された学説もあるので注意されたし。
「イスラム文明は、その発展過程において、ユダヤ、ギリシア、ペルシア、インドその他の文明をも豊かに取り入れたが、この説話集(アラビアン・ナイト)もまたそれらの方面からの影響を濃厚に受けている」(「はしがき」 より)
すなわち、 「アラビアン・ナイトは中世イスラム文化の縮図」(本書ラスト)… というアラビアン・ナイトの見方に、目から鱗。
何度読み返しても楽しめる名著。
アラビアン・ナイトを、ただの 「物語」 としてだけでなく味わってみたい方への入門書としてオススメです。
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